「ドラゴンクエストⅢ」で「こしょう一粒、黄金一粒」なんてセリフがありましたが、実際の歴史でも香辛料が大きな価値を持った時代がありました。「味の世界史」(以下、本書)は、調味料が世界史に与えた影響を綴った一冊です。
味の世界史税込1,045円(2024/12/09時点)味変が世界を変えた?
本書は、胡椒などの香辛料、砂糖など調味料の交易史をたどることで、世界の姿がどう変わっていったかを紐解くものです。現代の日本では世界の味覚を楽しむことはそう珍しいことではありません。しかし、そのような状況になったのはつい最近のことなのです。
今使われる香辛料の原産地は東南アジアが多く、かつて交易を通じてヨーロッパにもたらされたものはほんの一握りであり、香辛料の価値が非常に高い時代が長く続きました。それゆえヨーロッパにおいて香辛料は味変のためよりも、薬や儀式用に使われるのが一般的だったのです。
大航海と香辛料
その状況を変えたのは、大航海時代の到来でした。航海技術の発展とともにヨーロッパ各国が大西洋を渡り新大陸を発見、さらにアフリカ経由でアジア圏まで足を伸ばし、交易で香辛料を手に入れるのが以前より容易になったのです。それは財に乏しいヨーロッパを発展させるきっかけになりました。
それはヨーロッパの国々が、アジアをはじめとする他国に足がかりをつけることを意味します。それは日本も例外でなく、南蛮人と呼ばれたポルトガル人との交易が行われていたのは事実。しかし「香辛料は、日本人にとっては重要ではなかった」(本書98ページ)ようで、本書では例外的な事例になります。
砂糖の甘さは苦い味
「スイーツ」との言葉があるように、砂糖がもたらす甘みは人間を虜にしてきました。それには砂糖の大量生産が欠かせません。ニューギニアを原産とするサトウキビはヨーロッパでも栽培されるようになりましたが、大航海時代を経て南米大陸でのサトウキビ生産が盛んになります。
しかしそれはアフリカから連れてこられた奴隷を用い、南米の広大な土地を耕して作られたサトウキビであり、大量の砂糖は多大な犠牲のもとに作られていたのです。それをきっかけに「ヨーロッパ人たちが、世界を自分の好きなように動かし始めた」(本書143ページ)時代に突入しました。
味のグローバル化は何をもたらしたか
先に述べたとおり世界の味覚が味わえる現代の基礎を作ったのは、(良くも悪くも)調味料が世界に広まったことにあります。そのための大量生産、冷凍技術の開発、そしてうま味調味料の発見、これらはいわゆる世界史の流れと表裏一体の関係を成しているのは疑いないでしょう。
現代日本においてはそれらを忘れがちでありますが、近年の食品価格高騰も味のグローバル化がもたらした弊害をその一端とするものではないでしょうか。本書がそれについて考えてみるきっかけになれば幸いです。
「味の世界史」玉木俊明 著 SB新書 1045円(税込)