正義はどこへ行くのか

 実写版「忍者ハットリくん」の主題歌に「何が正義か見に行こう」というフレーズがあり、正義が一様ではない事を感じさせてくれます。「正義はどこへ行くのか」(以下、本書)は映画やアニメなどで描かれるヒーローと正義について考察したものです。

正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」税込1,056(2025/02/03時点)

ヒーローとヴィランは紙一重

 本書は「映画・アニメで読み解く『ヒーロー』」という副題の通り、ヒーローが活躍する様々な作品の中で語られる正義と悪について考察したものです。アメコミなどで描かれる絶対的な正義という概念は長らく変わらないものでありましたが、戦後の作品ではそれが揺らいでいきます。

 本来英雄譚は神話の昔から一旦共同体から離れ、旅の果てに偉業を成して再び戻る、という構造が見られ、現代のヒーローにもこの型は受け継がれています。「共同体の法の外側にいるという意味で、バットマンとジョーカーの間にどんな違いがあるのか?」(本書41ページ)とある通り、正義と悪は紙一重である構造が含まれているのです。

アメコミヒーローの社会的位置

 それは正義と悪が時代に合わせて変遷していく証左でもあります。アメコミ原作映画の中で新たに制作された「アイアンマン」では「古い資本主義から新しい資本主義への移行を表現しつつ肯定していること」(本書62ページ)が描かれ、現在のアメリカが反映されているのがわかります。

 さらに「X-MEN」「ブラックパンサー」などアメリカ社会の中でマイノリティに属するヒーローが現れるにつれ、対するヴィランも多様性を否定する存在になり、ヴィランたちが掲げるものとかつての絶対的な正義は、はからずも相似形になっていきます。

日本のヒーローと庵野秀明

 さて日本ではどうかというと、日本を代表する2大ヒーロー「ウルトラマン」「仮面ライダー」において前者が科学特捜隊などの社会を代表する組織を正義としているのに対し、後者は(原作では日本政府の裏面である)ショッカーが悪の組織という大きな違いがあります。

 そんなヒーローたちを(自主制作映画版)「帰ってきたウルトラマン」から「シン・仮面ライダー」まで再構築してきたのが庵野秀明。本書では原作のパロディとして描くスタンスから「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の完結で、庵野なりに決着をつけたヒーローの落とし所を論じています。

ヒーローが成立しにくい時代

 少なくとも多様性が基調となっている現代において、ヒーローは成立しにくい時代ではあります。20年以上続く少女向けアニメ「プリキュア」シリーズで、会社を模した敵の組織が少なからずあるのは先の多様性を否定する存在のカリカチュアライズとして便利なのかもしれません。

 ともあれ、悪が社会問題を具現化したものであるならば、それに立ち向かうヒーローが現れるのは必然。もしも本当に平和な社会が実現したならばその必要性はなくなるはずで、現在の状況を鑑みれば、それに向けてヒーローが活躍するのはしばらく続きそうです。

「正義はどこへ行くのか」河野真太郎 著 集英社新書 1056円(税込)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です