「機動戦士ガンダム」シリーズ中、最も破天荒な作りで人気を博したテレビアニメも、放送から30年が経ちました。「機動武闘伝Gガンダム(全3巻)」(以下、本書)はその作品を下にしたノベライズであります。

だから、アニメ版とは違うのだ!
本書は1994年に放送されたテレビアニメ「機動武闘伝Gガンダム」(以下、「Gガン」)の小説版です。「Gガン」はその源流である「機動戦士ガンダム」(以下、1stガンダム)と趣を大きく変え宇宙世紀とは別の世界観で繰り広げられる、いわゆる「アナザーガンダム」の先駆けとなった作品です。
スペースコロニー国家の覇権を競うために行われる「ガンダムファイト」の舞台となった地球。そこに降り立った主人公ドモン・カッシュは、父と兄が開発した最強のモビルファイター(以下、MF)デビルガンダムの破壊を目的に、ガンダムファイトに参加する…とのあらすじはアニメ版と同じながら、本書はかなり展開が違っています。
貴様にガンダムファイトを申し込、まない?
本書は序盤から、本来ガンダムファイターになる予定だった(本書オリジナルキャラ)スギハラ少尉にドモンが命を狙われ、アニメ版ではシャッフル同盟として友情を深めるファイターたちも、刺客となりドモンと戦うことになります。そんなわけで、本書では正式なガンダムファイトが行われません。

そしてドモンが操るMF・シャイニングガンダムも、ルールに沿わないガンダム同士のファイトでダメージを負います。戦闘後MFを格納する輸送船・ブッドキャリアーで修理されるものの、(アニメ版で後半登場するゴッドガンダムを登場させたくなるほどの)激しい戦いが立て続けに行われるのです。
流派、東方不敗は…
このようにドモンが狙われる謎とともに、「シャイニングフィンガー」しか技を持たないドモンが奥義「石破天驚拳」を習得するまでの紆余曲折が本書を貫く主軸であります。となればドモンの師匠にして宿敵の、東方不敗マスター・アジア(以下、東方不敗)がキーキャラクターとなるのは自明の理。

とはいえ一種デタラメな強さが衝撃的だったアニメ版に比べると、本書の東方不敗はおとなしい印象が拭えません。ただ流派・東方不敗が不殺を信念とする拳法だったがゆえに、デビルガンダムに出会い道を踏み外してしまった姿はアニメ版以上の悲壮感に満ちています。
そこには「五武冬史」のペンネームでアニメ版第45話(傑作!)のシナリオを担当した著者による、アニメでは語りきれなかった東方不敗の人となりがうかがえるでしょう。
見よ、小説版は「ガンダム」を踏襲している!
放送当初、世界のガンダム同士が戦う少年漫画的展開の「Gガン」は、(リアルロボットアニメの先駆者であった)1stガンダムのファンからすれば「リアルではない」との拒否反応が少なからずありました。しかし東方不敗の登場以降、従来の「ガンダム」像をぶち壊す突き抜けた演出で一定の人気を獲得したのも事実。
それでも「Gガン」には1stガンダムに通ずるテーマが隠されています。(アニメ版最終話でもカラト議長のセリフに示された)「TVでは(中略)描くことが出来なかったテーマ」(本書3巻160ページ)それは、本書で戦争の代替行為であるガンダムファイト成立の過程を描くことで戦争、果ては人類の本質を投げかけたこと。本書でそれを確かめてみてはいかがでしょうか。
「機動武闘伝Gガンダム(全3巻)」矢立肇・富野由悠季 原作 鈴木良武 著 角川スニーカー文庫 550円(3巻のみ528円)