「機動戦士ガンダム」は第二次世界大戦のイメージを持たせているせいか、後続シリーズのジオン軍モビルスーツにはドイツ語の名称を与えられたものが少なからずあります。「創作者のためのドイツ語ネーミング辞典」(以下、本書)はネーミングに適したドイツ語を集めたものです。
創作者のためのドイツ語ネーミング辞典 ドイツの伝説から人名、文化まで税込1,760円(2024/10/13時点)日本人の心に響く、ドイツ語の宴
本書は「日本人がかっこいいと感じる言葉」(本書3ページ)を中心に集めたドイツ語ネーミング辞典です。従来のネーミング辞典でもフランス語、スペイン語と並んでドイツ語が重要な位置を占めていましたが、本書はドイツ語の基本から始まって、属性ごとに章分けされた言葉が4000語収録されています。
先の「ケンプファー」「ゲルググJ(イェーガー)」などのモビルスーツや、「新世紀エヴァンゲリオン」の特務機関NERV、「キャプテンウルトラ」の宇宙船・シュピーゲル号にしても、日本の作品ではドイツ語を使ったネーミングが目立つわけで、本書でその由来を知るのも面白いかもしれません。
バッハは小川さんだった…?
本書の「人間の章」ではドイツの人名が意味とともに並び、ギュンター、ヴォルフラム、ツェツィーリア、マティルダなどおなじみの名前が見られます。また、貴族の階級に関する言葉も外せません。ケーニヒ、ヘルツォーク、バローン、リッターなどとともに、コラムでこれらを用いたネーミングのヒントを解説しています。
また、あえて日本人の名字をドイツ語訳したページもあり、「小川」姓は「バハ」「日本では『バッハ』と発音されることが多い」(本書114ページ)となるようで、「石田」を「シュタインス・フェルト」、「山下」を「ウンター・ベルク」とするなどドイツにも同じ発想のネーミングが存在し、人間である以上考え方は国を問わないようです。
出でよ、クーゲルシュライバー!(と、ボールペンを出す)
本書では、特に日本人を魅了する言葉をコラムで扱っており「無駄にかっこいいドイツ語」(本書174ページ)として「クーゲルシュライバー」(ボールペン)が例として出てきます。ドイツ語を使う人にとってはどうということもない言葉でありながら日本人にはとてつもなく魅惑的に聞こえるのは、文化の差を感じてしまいます。
逆に「神を殺す者」「世界の破壊者」などいわゆる中二病に響くような二つ名をドイツ語で表記したらどうなるかを示したページもあり、中には「ナーファ・フォルガー・デァ・ツァイト」(時の継承者、同131ページ)なる言葉があり、「ファンタシースターⅢかい!」とツッコミを入れたくもなります。
中二病だからドイツ語を使いたい!
そんな中二病的な配慮もあってか本書前半には「幻想の章」と銘打って、魔術やモンスターなどファンタジー要素を含んだ言葉を集めており、いわゆる「鉄の処女」として知られるアイテムも「アイゼルネ・ユングフラオ」(本書36ページ)として収録されています。
それに限らず本書は「『読み物』として楽しんでもらいたかった」(本書297ページ)著者の配慮が感じられ、単なるネーミング辞典にとどまらないものになっています。少なくとも、ドイツ語の導入として日本人がかっこいいと感じる言葉をピックアップするのはある意味正しいのかもしれません。(Re)
「創作者のためのドイツ語ネーミング辞典」伸井太一 著 ホビージャパン 1760円(税込)