ファッションスケッチ

 人体の描き方と服装の描き方は専門書が別れていることが多く、服のシワの描き方に終止しているものもある反面、総合的なものが見当たらなかったりします。「ファッションスケッチ」(以下、本書)は服の描き方とそれを纏う人体の描き方を程よく合わせた技法書です。


人体と服を破綻なく描くには

 本書はファッションイラストを描く中で、注目するポイントと描く際に必要なヒントを併記した一冊です。デザイナーが用いるファッション画の指南書などに見られる、製図のように人体と服を描くのではなく「視覚的な情報を自分の表現に落とし込むための考え方」(本書5ページ)を重視した内容になっています。

 見開き左ページにファッション画とそれにどのような感情を載せたのか分かるキーワードを、右ページにそのポーズを素体状態で図示、もしくは服や小物の構造の解説など、左ページを描くためのヒントを掲載した独特の構成となっており、副題である「魅せるポージングの描き方」を提示していきます。

服にはいろいろなキモがある

 服を描くとなると、知っていそうで知らないことがあります。例えば襟や袖、リボンなど平面的に描きがちになりそうな部分も本書では基本的な形状を図示し、「スカートの基本形はランプシェード」(本書113ページ)などわかりやすい表現で解説してくれます。

 さらに「頭髪は3つのパートに分けて考える」(同17ページ)「曲げた小指の先は、手のひらの中央寄りを指す」(同33ページ)など、人体のパーツに関するキモとなる知識も掲載、独自の素体表現と相まって技法書としてハードルが低い印象があります。

服の下には人体がある

 本書後半は、服の下にある人体を描くための知識とそのコツを紹介しています。前半の右ページでも人体を簡略化した素体状態が描かれていますが、全身では上半身と下半身が背骨の線だけでつながっている(場合によっては離れている)独自なものになっていました。後半では「素体をたくさん描こう」(本書142ページ)としてそのシンプルな素体が様々なポーズを取っています。

 そして素体を使ったポージングの際に使われるのが「ジェスチャードローイング」(以下、GD)の考え方。見たままの写生ではなく印象をデフォルメして描き、大まかな形で捉え一本の線で動きを表現することで、自分が 何を描きたいのかを再認識する効果があるのです。

ジェスチャードローイングに救われて

 そんな著者が「決して若くはない年齢で、本気で絵の練習をはじめ」(本書8ページ)た中で出会ったのがGD。本書コラムやあとがきにはGDに触れて絵を描く楽しさに目覚めた経緯や、絵を描くためのヒントなどに触れられています。共通するのは「良い嘘をつくこともまた、絵を描く醍醐味」(同172ページ)。

 人体にせよ服装にせよ、自分というフィルターを通して生み出されるものが作品となり、個性につながるのです。本書に綴られた、著者の経験から生まれた絵を描くことに対する不安や悩みを解消する言葉は、同じ志を持つ読者の救いとなるでしょう。

「ファッションスケッチ」ふるり 著 ボーンデジタル 2970円(税込)

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