世界観を創る

 「新世紀エヴァンゲリオン」が人気になった一因は、その謎だらけの世界観なのは疑いの余地がないでしょう。「世界観を創る」(以下、本書)は創作物における世界観を構築するためのノウハウを解説した一冊です。


この世界はどう見えているのか、ではなく

 本書はアニメで設定制作を行う著者が、アニメに限らず創作物で重要な世界設定の作り方を解説するものです。SFやファンタジーでは現実と違った世界を創出するのが不可欠。そんな作品が増えてきた近年、これまで以上に世界設定が重要になっている中、具体的に何を行えばよいのか本書で明かされます。

 「世界観」という言葉は意味合いにおいて広い解釈があるので、本書では「世界観=創作世界を端的にあらわすのは何か」(本書10ページ)と定義し、創作された世界が現実とどう違い、それを一言で言い表せる設定の作り方と、それが共通認識として必要になるアニメの制作を中心に解説していきます。

作品を成立させるための設定制作

 そしてアニメの現場における設定制作の位置づけとともに、具体的な仕事が示されます。あくまでも創作物、さらに多くの人々の目に触れる以上、ゼロから構築するにはコストもかかるうえ、視聴者の共感を得られない可能性も生まれます。それゆえ「大きな要素を一つだけ」(本書14ページ)変えた世界を創作するのが鉄則です。

 その変化した要素をもとに世界を成立させるにあたっては、どんなトンデモない設定でも説得力を持たせる必要があります。そのため現実にある歴史や文化などを参考にするのが必須であり、(現代に似た世界ならさほど難しくはないでしょうが)いわゆるファンタジー世界だと中世ヨーロッパの資料などに当たらなければなりません。

歴史を扱うときには、注意せよ

 そんな異世界の人間が現実の人間と同様である前提で、住む土地の気候や風土を設定すればある程度の生活様式が決まります。そして人口や文明の発達具合までも芋づる式に出てくるでしょう。ただ創作物である以上、監督であれ作家であれその要望に答えるのが重要であります。

 また、現実世界や史実を舞台にするときには著作権の関係上、固有名詞を扱う際には注意が必要です。かつての「忠臣蔵」があくまで過去の物語として創作されたように、社会に影響を与えかねない題材を扱うならば、さらなる留意が求められるのです。

まずは、本物に当たれ

 ネットが発達した現在、資料を探すのはさほど難しくない環境になりました。しかしフェイクが蔓延するなか、本物の情報にたどり着くにはそれなりの知識と経験が求められます。だからこそ可能な限り本物に触れることが重要であり、そこに存在する画面上では得られない感覚も設定構築にとって強力な武器となるでしょう。

 本書内では著者の手掛けた仕事に関して、文章内で具体的な名称は示されていませんが、大まかな設定解説を目にすればその内容がおぼろげながら浮かんでくるようになっています。それを含めて現実と(少しだけ)変わった世界の作り方の片鱗を楽しんでみてはいかがでしょうか。

「世界観を創る」鈴木貴昭 著 星海社新書 1540円(税込)

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