例えば、漫画「ドラえもん」に出てくるひみつ道具(タイムマシンでもどこでもドアでも)、あったらいいなと思う反面、どういう仕組みで動いてるのだろう、本当に実現できるのだろうか、などと思ったことはありませんか?
「ブロンド美女の作り方 空想を実現する最先端テクノロジー」(以下、本書)は、そんなSFに出てくるような技術を出発点として最先端の科学を解説した本であります。
こんなことがあるといいな…?
タイトルにある「ブロンド美女の作り方」とはクローンに関する一章のタイトル。アンドロイドの作り方じゃないのかって?ああ、原題では「HOW TO CLONE THE PARFECT BLONDE」となっているから翻訳の都合というやつだね。安心してほしい、次の章では「家政婦ロボットの作り方」になっているからそちらを参照することを勧めるよ。
というわけで、本書の著者はイギリスの科学ジャーナリスト。「毎日の生活で感じる『こんなことがあるといいな』という八つの願望を題材にして、科学の最先端をわかりやすく、読みやすく解説したベストセラーねらいの本」(本書7ページ)だそうで、先に挙げたクローンやロボットをはじめ、タイムマシン、サイボーグなどおなじみのSFガジェットについて、実現可能なのか、どこまで研究が進んでいるのか述べるとともに科学の基礎を学べる本となっています。
ああ、ジョークがクドい!
おいおい、そりゃないだろう。これでもちゃんと科学の解説をしているつもりだぜ。気になるキーワードがあったらコラムを挟んで説明しているんだ。クローンやブラックホールに関しては作り方のレシピだって用意している。とても親切だと思うがね。
とはいえ、まるで洋画の吹き替えみたいな文章では内容が頭に入ってこないというもの。
- 「いまのキーボードに四苦八苦している人は、タイプライターが発明されたヴィクトリア朝を恨むことだ」(本書66ページ)
- 「アメリカじゃ、銃を所持する権利のほかに、太る権利も保障されているらしいね」(本書128ページ)
- 「アインシュタインはこの等価原理を、『人生でもっともうれしいひらめき』と表現している。というか、ほかにもっとうれしいことはなかったのか?」(本書175ページ)
などなど、いちいちこう締められては、日本人には過剰に感じます。
そのネタ、日本じゃあマイナーだ
OK、百歩譲って文章がクドいとしても、たとえはわかりやすくしているつもりだ。「転送装置」の作り方、となれば「スター・トレック」が出てくるのは当たり前じゃないか。サイボーグと言えば「600万ドルの男」だろ?「ブラックホール」って映画は…さすがに知らないか。
本書では読者に親しみやすくするため、SF映画やTVドラマなどを引き合いにして解説しています。しかし、その中には日本では知名度が低い、もしくは古めのものが多かったりします。
「あくまで仮定としてだが、デブのうえ髪が薄くなりかけていて、黄疸症状で肌が黄色くなっていて、どちらの指も一本欠けた人がいるとする。ここでは彼をホーマーと呼ぶことにする」(本書156〜157ページ)
この一文でアニメ「ザ・シンプソンズ」を思い出すのにしばらく時間がかかってしまいました。
クローンを解説するのにクローン兵士が登場する映画「スター・ウォーズ」で例えるのも、テレポーテーションを扱った章ではさも当然のように「スター・トレック」が出てくるのも仕方がありません。が、「スター・トレック」が日本でも根強いファンがいるとは言え、一般的かと言えば今ひとつと言わざるを得ないわけで、ましてや「600万ドルの男」や「ドクター・フー」とは!
どこまでいっても欧米か!
つまり、君はこう言いたいわけだな。「この本は日本人向けではない」とね。しかしだ、こうは考えられないかな。「欧米で一般的なウケを狙うとこうなる」というように。
たしかに、科学に関する記述はわかりやすい方だと思われます。欧米的な部分が目立つだけで読み物としては十分でしょう。記述の元ネタがわかれば楽しめるマニアックな本とも解釈できます。とはいえベストセラーを狙うのは難しいと思われます。こと日本に限っては。
「ブロンド美女の作り方 空想を実現する最先端テクノロジー」スー・ネルソン リチャード・ホリンガム著 藤井留美 訳 バジリコ株式会社 1800円+税