ガレージキットの祭典・ワンダーフェスティバルで見かけるように、フィギュアが自己表現の一つとして作られるのは珍しいことではありません。「アウフヘーベン 石長櫻子/植物少女園作品集」(以下、本書)は独自の表現でフィギュアを創作する作家の作品集です。
アウフヘーベン 石長櫻子/植物少女園作品集税込3,520円(2024/12/15時点)可愛い少女ではいられない
本書は「植物少女園」のディーラー名でガレージキットを制作する造形作家の作品集です。前半はオリジナルの作品を、後半は市販のフィギュアなどの商業原型を掲載しており、いずれも著者の個性が強く見られる作品ばかりです。
本書には作品だけではなく塗装前の原型や製作過程の写真もあり、完成品より作品そのものの造形が際立つものになっています。その大半は少女をモチーフにしたもので、いわゆる美少女とは素直に呼び難い造形ではありますが、それこそが著者作品の魅力でもあります。
その身に宿すはエロスかタナトスか
その作品たちは線が細く儚げな造形でありながら異形を交えた物が多く、肢体を惜しげもなくさらしながらもエロス(性)よりはタナトス(死)を感じるものになっています。そこには球体関節人形に通じる人体の拡張、もしくは変質を求める表現があり、著者の根幹をなすものといえるでしょう。
「虚栄心と未熟さを詰めた思春期の少女性の象徴」(本書188ページ)との言葉は、その造形の真髄を語るものと考えられます。初期の造形作が「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイであったのは、著者の持つテーマの琴線に触れるキャラだったからかもしれません。
好きなものを作る、ガレージキットの本質
著者による綾波レイのフィギュアは作家性の強いものでありましたが、仕事としての商業原型は作家性を控えめにしつつも、「Fate」シリーズや初音ミクなどメジャーな作品のキャラでありながらも原作の持つ魅力と個性がうまく融合した造形になっています。
その中でもアニメ「キルラキル」の鬼龍院皐月を立体化したフィギュアは「アニメが面白すぎてどうしても作りたくなり(中略)無理矢理勢いで作りました」(本書190ページ)との思いをぶつけた作品です。そこには後に完成品として発売されるほどの傑作となり得た「作りたいものを作る」ガレージキットの本質的な衝動があります。
粘土と異性と黒猫と
近年はデジタルモデリングでフィギュアを製作することも多い中、著者は石粉粘土を使って製作しています。本書巻末には表紙作品のメイキングがあり、複製、塗装まで逐一写真におさめられ、アナログならではの手作り感がうかがえます。
近年は異性の作品も制作している著者。本書のラストではその制作拠点となるアトリエの中を撮影、その床に寝転がる黒猫とともにその創作の一端がみえるでしょう。緻密なものからユルい造形まで、著者の幅広さを一覧してはいかがでしょうか。(Re)
「アウフヘーベン 石長櫻子/植物少女園作品集」石長櫻子/植物少女園 著 ボーンデジタル 3520円(税込)