アニメ大国の神様たち

 今でこそ個人でのアニメ制作はデジタルの力を使えば難しくないわけですが、かつて商品としてのアニメーションは多人数で作られるものとされてきました。「アニメ大国の神様たち」(以下、本書)は日本アニメを代表する人物にインタビューした一冊です。

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アニメは、数多くの人々で成り立っている

 本書は新聞連載されたアニメ関係者のインタビューを単行本化したものです。本書の内容は2005年から08年までに行われたものでひと昔前の情報ではありますが、今となっては鬼籍に入った人物の言葉も収録されている点で貴重であります。

 本書に収録されたインタビューは、アニメーターの月岡貞夫、アニメ監督・出崎統などメジャーな職業からアニメ美術を担当した中村光毅、プロデューサーの(作曲家・鷺巣詩郎の叔父)鷺巣政安などあまり実態が知られていない職業まで、アニメ制作には様々な役割があるのがわかります。

手塚治虫とアニメとその周辺

 日本のアニメで欠かせない人物といえば、漫画の神様・手塚治虫。本書では手塚が立ち上げたアニメスタジオ・虫プロダクションに所属していた人物、先の出崎統、高橋良輔、富野由悠季など、後に歴史的な作品に関わる才能がそこに集結していたと見られる部分があります。

 しかしながら、それ以前からアニメーション映画を制作していた東映動画(現・東映アニメーション)、漫画家の吉田竜夫が立ち上げたタツノコプロなど、本書では創成期からアニメ制作会社が乱立した時代の証言も劣らずあります。それはビジネスとしてのテレビアニメが辿った歴史の記録といえるでしょう。

テレビまんがか、リミテッドアニメか?

 1963年から毎週30分放送された「鉄腕アトム」を皮切りにテレビアニメは当たり前のコンテンツになっていきますが、それは作画枚数を落とすリミテッドアニメの手法を使わなければ成り立たないものでありました。東映動画などが制作したフルアニメーションから比べれば「テレビまんが」と呼ばれても仕方がないものであったわけです。

 それを劣ったものと見るか、新たな表現と見るかで(特にアニメーターの中では)テレビアニメの評価が変わってきます。本書では、少なくともそうせざるを得ない状況にあった現場の人々が不利な状況を覆そうと作画やストーリーの面で新たな作り方を模索した姿が見えてきます。

 中でも安彦良和と辻真先が組んだ「巨神ゴーグ」を切り口にした二人の対談では「当時を振り返ると、(中略)アニメに投資してくれる玩具メーカーがなかったら、あの時、テレビアニメは死滅していたかもしれない」(本書237〜238ページ)と、そんな時代の一端を語ってくれています。

日本アニメに未来はあるのか?

 世界に誇る文化として認知度を上げてきた日本のアニメ。しかし本書のインタビューでは口を揃えるようにアニメ産業の先行き不安を語っています。途中に挟まれるコラムでも、創成期から変わらぬ業界の経済的問題、分業化が進んだゆえの閉塞感など、山積みの課題を提示しています。

 今も変わらず日本アニメは本数を増やし、海外での評価もリアルタイムで返ってくる一方、隣国中国など海外でのアニメ制作も追い風にある時代でもあります。本書で提示された問題の解決はこれからのアニメに必須なのかもしれません。

「アニメ大国の神様たち」三沢典丈 著 中川右介 監修 イースト・プレス 1870円(税込)

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