固定されたマフラーをなびかせ、語尾に「ゼーット!」をつける水木一郎のキャラ付けはテレビ番組「ガキの使いやあらへんで!」の年末特番「笑ってはいけないシリーズ」が始まりですが、その芸歴からすればほんの一時でしかありません。「空にそびえる 水木一郎ソングブック」(以下、本書)は「アニキ」と親しまれた彼が歌った曲の歌詞とそれにまつわる言葉を集めたものです。
(本記事ではアニメの主題歌、特撮の主題歌合わせて「アニソン」と表記する旨、ご了承の程を)
聞いたか君は、アニキの言葉を
本書は2022年に逝去されたアニソン歌手・水木一郎(以下、アニキ)による主な楽曲の歌詞を収録したものです。1971年「原始少年リュウが行く」でアニソンの世界に足を踏み入れたアニキは、72年「マジンガーZ」のヒット以降、アニメ・特撮ソング一筋で50年の長きにわたって歌い続け、「アニソンの帝王」と称されました。
「歌謡曲でデビューすると(中略)『個性がない』と言われるし、(中略)相当悩みました。ところが、その無個性がアニメソングにはかえってよかった」(本書051ページ)など、本書にはアニキによるアニソンに関する発言も収録されており、その人となりを知る一助にもなります。
宙明とアニキの、合体技だっ、ダダッダー!
2022年は、作曲家・渡辺宙明が亡くなった年でもあります。先の「マジンガーZ」を作曲したこともあってかアニキとのタッグを組むことも多く、「鋼鉄ジーグのうた」「オー!!大鉄人ワンセブン」「勝利だ!アクマイザー3」など70年代アニソンのスタンダードを作り上げていきました。
もちろんアニキは渡辺宙明以外にも小林亜星、すぎやまこういち、宮川泰などそうそうたる作曲家による楽曲も歌っており、本書でもその思い出を読むことができます。しかしながら「『マジンガーZ』と宙明先生に会わなかったら、今の僕はないです」(本書028ページ)との言葉通り、渡辺宙明との仕事は平成の世になっても「ゲッターロボ號」など長きにわたって続き、ザ・アニソンと呼ぶべき曲を届けました。
さすが、歌のおにいさんでござる
「アニメ歌手水木一郎とNHK歌のお兄さんの水木一郎と、両方を使い分けながらの仕事」(本書031ページ)の時期があったアニキ。それゆえ本書の楽曲リストには「おかあさんといっしょ」で歌ったものも入っており、のちに同じNHK教育テレビ(Eテレ)の番組で「フン・フン・フンコロガシ」「それいけ!ゾーマキン」などを歌っているのも驚くには当たりません。
本書に収録されている歌詞はアニキが歌った1000曲を超える楽曲の中でほんの一握りでありますが、「燃えろ!仮面ライダー」「地獄のズバット」「ゲームセンターあらし」など熱く歌い上げるものから「ルパン三世愛のテーマ」「さすらいの星ジミーオリオン」「ムーへ飛べ」などしっとり歌うものまで幅広く、アニキお気に入りのものも含まれます。
ガキ向け仕事と言わないで、オイラがやらなきゃ誰がやる
「『テレビまんがの歌』も、それを歌う歌手も、どこか格下に見られていました」(本書056ページ)そんな時代から歌い続けてきたアニキ。作品の雰囲気を伝えるように歌うスタイルはいつしか国を飛び越え「日本ならではの文化を発信し、世界に羽ばたくことができた」(同203ページ)段階にまでたどり着きました。
今ではアーティスト自身が、単なるタイアップではなく作品に寄り添ったアニソンを制作するのも珍しくない時代。その源流にはアニキに代表される数々の歌い手による仕事があります。本書で当時を知る人も知らない人もアニキの偉業、その一端を感じてもらいたいものです。(Re)
「空にそびえる 水木一郎ソングブック」水木一郎 解説・名言 さいとうよしこ 編 河出書房新社 1980円(税込)