1本の線で思いどおりに描ける!魔法の人物ドローイング

 「目で覚える動きの美術解剖学」で語られたように、人物の動きを捉えるには1本の線で表すのが手っ取り早い方法です。「1本の線で思いどおりに描ける!魔法の人物ドローイング」(以下、本書)は、それを応用して短時間で描くジェスチャードローイングを解説したものです。


魔法のジェスチャードローイング

 本書はジェスチャードローイング(以下、GD)がどういうものか、から始まります。「描き手の感じた『印象』を表現することを優先する」(本書2ページ)のがGDで、著者がそれに出会って描く楽しさを取り戻す経緯を冒頭のストーリーボードに表しています。

 本書では描くことに必要な「ルール」と「クリエイティブ」という2種類の要素が示されており、ルールは知識、クリエイティブは感性と捉えて良いでしょう。GDはクリエイティブ優先の方法であり、対象の印象を「1本の線で紙の上に書き留め」(同39ページ)ることが魔法のような効果の根本であります。

印象を表す線とオノマトペ

 本書ではその1本線を「ライン オブ アクション」(本書38ページ、以下LoA)と呼び、それを中心にしていわゆる棒人間(ラインマン)を描く方法を紹介しています。それに要する時間は30秒!LoAが直線でも曲線でも、それに乗せて描けば単なる棒人間でもどういうポーズを取っているのかが一目瞭然です。

 LoAを引くときに助けとなるのがオノマトペ。「ギューン」「ストーン」などの擬音を乗せることで自分がその線にどのような印象を持っているかが明確になり、そのリズムに沿って描くことで30秒の時間制限も苦にならずにスピード感も増し、自らの個性にも気付ける効果を発揮するでしょう。

とりあえず、ざっくりでいいんだ

 本書では補助的なものでありますが、ルールに関する記述もあります。人体の比率、構造などを「ざっくりポイント」(本書142ページほか)として最小限に留め、最終的には2分で人物を描くことを目指します。見本として著者によるGDの変遷が綴られ、ルールとクリエイティブの間を揺れ動く様子が見て取れるでしょう。

 「『印象』が一番重要であることを忘れてはいけません」(同157ページ)と念を押すように、クリエイティブの要素は大事でありますが、ルールとの釣り合いを取ることが最終的には作品の出来を左右します。でありながら、絵画においてはルール偏重主義が知らぬうちに描き手の重荷になる危険性も否めません。

楽しく描ければ、それでいい

 著者もその重荷に苦しめられた一人であり、GDとその講師・栗田唯に出会ったことでその重圧から開放されたのです。本書にはその師と呼べる栗田のコラムが掲載されており、「継続なんて知らへん。楽しいか、楽しくないかや!」(本書74ページ)との言葉はその本質を射たものでしょう。

 「ジェスチャードローイングも『万人に効く特効薬』ではない」(同)としながらも、絵を描くハードルを下げる方法の一つとして有効であり、楽しく描くことこそが継続につながり感性を磨く助けになる、とする栗田の考えとGDは、描きたくても描けない人にとって福音になるかもしれません。(Re)

「1本の線で思いどおりに描ける!魔法の人物ドローイング」たきみや 著 西東社 1980円(税込)

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