「美少女戦士セーラームーン」の例を出すまでもなく、惑星や衛星をモチーフにしたキャラクターは珍しくもありません。さて、我々はその天体をどれだけ知っているのでしょうか。「天体の事典」(以下、本書)は天体を擬人化したイラストとそれにまつわる情報をまとめた一冊です。
君の知らない宇宙の物語
本書はイラストレーターの著者が、天体を女性の姿で描いたイラストを左ページに配置し、右ページにはその実際の姿、名前の由来、その伝承などの情報をまとめて構成したものです。古来より神話や伝説に語られた惑星や衛星、彗星などの全容を見開きで閲覧できます。
本書は著者によるイラスト集としてだけではなく、「創作に役立つ神話や雑学などを詰め込み、創作者のバイブルとして」(本書003ページ)使えるように構成されています。巻末には星座のリストや季節ごとの星図、恒星につけられるギリシア文字一覧まで天体の基礎知識が収録され、知識欲をそそられるでしょう。
太陽を囲む、みんな仲間だ
本書で最初に紹介されるのは、太陽を中心とする我らが太陽系。その周りを回る8惑星はもちろん、もはや準惑星となった冥王星まで記述されておりますが、月をはじめとする主な衛星についても多く、さらにハレー彗星も太陽を回っていることに変わりはないわけで、太陽系の仲間は思ったより多いのです。
火星の衛星・フォボスとダイモス、木星の衛星・イオ、エウロパ、ガニメデなど、ギリシア・ローマ神話に基づくネーミングがなされており、章末にその家系図が掲載されている中、天王星の衛星はシェイクスピア作品から名付けられているのは、改めて考えると不思議な気がします。
ブラックホールに萌えたやつがいる
本書の後半は太陽系の外にある天体を扱い、北極星の名で知られるポラリス、自動車の名前に使われたアルファルド、夏の大三角形を形作るデネブ、アルタイル、ベガなど有名な恒星の名が並びます。そしてアンドロメダ銀河、「すばる」の名を持つプレアデス星団、さらにブラックホールまで(ブラックホールは質量が)巨大な天体を紹介、大きさを表すためか人物像が見開きページを横断する形のレイアウトです。
さらに星座も擬人化、黄道十二宮でおなじみの12星座(+へびつかい座)のほかカシオペア座やペガスス座などメジャーなものもあり、特におおぐま座のキャラクターは美人ぞろいの本書では珍しく、熊の手を模した手袋を着用した可愛げのあるデザインとなっており、遊び心が感じられます。
眩しすぎる天体に I Love You
本書巻末にはキャラクターデザインのコンセプトを著者自ら解説、「大気のストール、海洋のドレス(中略)足元には人類や生物の血生臭さ」(本書154ページ)を表現した地球、「麦星とも呼ばれていることから」(同155ページ)小麦色の肌をしたアルクトゥルス、先のおおぐま座でも「尻尾は神話に合わせた形状」(同157ページ)など天体本来の情報をもとにデザインされているのがわかります。
有史以来、人間の心を揺さぶってきた歴史を持つ星ぼしの世界。巻末の用語集にも暗黒星雲、超新星爆発、白色矮星など中二病心をくすぐるキーワードが目白押しで、それらの知識とその応用としてのイラストを載せた本書は創作に役立つでしょう。
「天体の事典」梅田あいな 著 渡部潤一 監修 西東社 2750円(税込)