思えば、「新世紀エヴァンゲリオン」には「ロンギヌスの槍」「死海文書」「セフィロトの樹」など謎めいたキーワードが溢れていましたが、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」ではそれらは鳴りを潜め、拍子抜けだった記憶があります。「365日で知る現代オタクの教養」(以下、本書)はそんなキーワードを集めた一冊です。
オタク知識、いまさらですが…
本書は、漫画やアニメ、ゲームなどで見られるキーワードを1年365日になぞらえて解説したものです。「自分知る知識以上に、オタクなら知っておきたい知識や教養というものは、(中略)かなり多いのである」(本書まえがき)との下、多種多様な分野から集めた知識が1日1ページの体で構成されています。
さらに曜日ごとにジャンルを変え、歴史上の出来事から現代の科学用語、オカルトまで幅広く扱っています。そこには近年聞かない日はなかった「パンデミック」から「空飛ぶモンティ・パイソン」でおなじみ(?)の「スペイン異端審問」まで、意外に日常につながる言葉も多くあります。
み〜んな悩んでオタクになった?
「Fate」シリーズや「文豪ストレイドッグス」などの影響か、本書には英雄、文学者、科学者などの人物名が多くありますが、中には「レッド・バロン」の二つ名を持つ第一次世界大戦の撃墜王・リヒトホーフェンまであり、その中でもニーチェやサルトルなど哲学者の名前が目立ちます。
なぜ哲学者?と思うかもしれませんが、ファンタジー作品においては世界観を構築するに当たり、神の存在は重要な部分であります。かつて現実世界でも神の存在が常識であった時代に、それを否定した哲学者たちの思想に触れることはその助けになるのではないでしょうか。
それだけではなく、フロイトやユングの提唱した「夢判断」「集合的無意識」など、創作ではメジャーな世界設定に使われる概念は心理学から生まれたものであり、思った以上に関わりの深いものであります。
人間の心は宇宙より広いのか?
それと関連するわけではありませんが、人間心理に関する言葉も少なからずあります。
- 「流行り物や行列のできるお店など、みんなが注目しているものは自分も試したくなる」(本書288ページ)「バンドワゴン効果」
- 「大半の人は上が命令すれば理不尽なことでも従う」(同260ページ)ことを検証した「ミルグラム実験」
- 「特定の物や人に対するバッシングが暴走したもの」(同281ページ)「モラル・パニック」
など誰にでも起こり得る、時には危険な心理状態について解説されています。
そんな人間心理を突きつけられると、「もしかしたら、あなたは水槽に浮かんでいるただの脳かもしれない」(同155ページ)と言われてもそれを証明できない人間はなんとちっぽけな存在か、と思うのも致し方ないのかもしれません。
オタク知識は、ここにも、そこにも、あそこにも
もちろん本書にはUFOやUMA、オーパーツなど(実在はともかく)中二病心をくすぐるキーワードも収録、錬金術から科学が生み出されたように、そんな物事を生み出した先達の努力、または妄想に感服せざるを得ません。人間の歴史がそんなオタクによって作られた、といっては多分に過ぎるでしょうか。
本書の終わりには「しかし、これで終わりではない。むしろ始まりだ」(本書369ページ)の言葉があり、世のあまねく事象はオタク知識になりうるわけで、「教養を深め、好奇心と妄想力を刺激してほしい」(同)との言葉は生きる励みにもなります。
「365日で知る現代オタクの教養」株式会社ライブ 編著 カンゼン 2200円(税込)