アニメ監督で…いいのかな?

ひょうひょうとした風がよく似合う
アニメ監督と人の言う
ページの中にリアルロボットアニメのつくり手がよみがえる
惑星デロイアの砂漠を、アストラギウス銀河を駆け抜けたその人たらし
あたしら、ご意見無用のアニメ屋稼業
その軌跡、336ページなり

次回、「アニメ監督で…いいのかな?
高橋良輔、それは漢たちの心に刺さる折れた針

アニメ監督で・・・いいのかな? ダグラム、ボトムズから読み解くメカとの付き合い方税込2,420(2024/04/14時点)

一人称は「あたしら」

 「アニメ監督で…いいのかな?」(以下、本書)は、TVアニメ「太陽の牙ダグラム」(以下、「ダグラム」)や「装甲騎兵ボトムズ」(以下、「ボトムズ」)など80年代に放送されたロボットアニメを監督した高橋良輔が、自ら手がけた作品のメカニックに絡めて語った回顧録です。

 タイトルの通り、著者本人は「あたしらはアニメ監督ですといい切るのに忸怩(じくじ)たる思いが残るのである」(本書003ページ)そうで、確かにハードなリアルロボットアニメを作った監督にしてはひょうひょうとした語り口で、しかしそれゆえにどんどん読めてしまうという、文章には定評のある著者らしい本となっています。

二大人気武器はこうして生まれた

 さて、アニメやゲームなどでたびたび登場する隠れた人気の武器といえば、杭を高速で発射して相手を貫く「パイルバンカー」と刃が分離してムチのようにしなる剣、通称「ガリアンソード」があります。二つとも著者が監督したアニメが発祥と言われます。

 「ボトムズ」は、著者の代表作とも言えるロボットアニメで、「機動戦士ガンダム」以降のいわゆるリアルロボットアニメの中でも根強い人気を誇る作品です。その魅力の一つに、劇中に登場するメカ、アーマード・トルーパー(以下、AT)の存在があるのは間違いないでしょう。

 本書ではそのATの成立過程が多くのページを割いて書かれています。前作「ダグラム」の反省を生かして生まれたATは相当難産だったようで、「町中を歩きましたね。ぶーらぶら、ぶーらぶら。そうしたらなんと!(中略)あるものを見たとき電撃のように神の啓示が降りてきましたね。(中略)それは…杭打ち機」(本書063ページ)との経験を元に生まれたのがATの標準装備、アームパンチだったのです。のちにATの武装、また対AT用の武器パイルバンカーとして発展していきます。

 また、「機甲界ガリアン」の主役メカ・ガリアンが使う剣(本書では「ジャラジャラ剣」)に関しては「発想の素は何を隠そう切れた自転車のチェーンである」(本書139ページ)というように、本書は自作のメカ解説とともに当時の状況や裏話を語っていきます。

これが、勝利の鍵だ!

 90年代になって、著者はロボットアニメ・勇者シリーズの最終作「勇者王ガオガイガー」(以下、「ガガガ」)のプロデューサーになります。「白状すれば、あたしらプロデューサーとは名ばかりで」「ずーっとスタジオに居て徘徊して冗談を言って励ましていればいい」(本書247、248ページ)という仕事っぷりだったそうですが、ともかく「ガガガ」は最後を飾るにふさわしい熱いロボットアニメとして人気を博しました。

 「ガガガ」にプロデューサーとして著者の意見が反映されていないのか、と思えばさにあらず。「ガガガ」に登場するロボットの武装はハンマーやドライバーなど工具をモチーフとしたものが多く、「ガレージ育ちのツールロボを生み出したのが、隠れもしないプロデューサーのあたしらというわけなのである」(本書264ページ)と、著者のアイデアでガオガイガーは従来のヒーローロボットと一味違った存在になったともいえます。

高橋良輔を語る人々

 「技術を磨かず、なんで収入を得ているかわからず、執着と野心を見せないフーラフラ男に監督なんて務まるのか」(本書004ページ)と自嘲している著者になぜ監督が務まったのか、それを知る鍵として本書巻末には著者と仕事をともにした二人のインタビューが載っています。

 その二人とはメカデザイナーとして関わった大河原邦男と出渕裕。二人が口を揃えて著者を表す言葉は「人たらし」。「スタッフには自由にやらせながらモチベーションをうまく引っ張り出して作っていく」(本書325ページ)やり方でアニメ作品を作り出したことが著者の才能と言えるでしょう。

 もちろん比較的自由にオリジナルのアニメが作れた80年代という時代と、優秀なスタッフに恵まれた環境の良さというものがあったとはいえ、今でも「高橋作品」と呼ばれる一連のアニメに著者の存在が色濃くうかがえるのは間違いありません。

 本書はそんな「高橋良輔という生き方」を知るための一冊であります。

「アニメ監督で…いいのかな?」高橋良輔 著 KADOKAWA 2200円+税

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