ファミコンブームが起こり始めた1986年、それを押し上げるように発売された拡張機器、それがディスクシステムです。「ディスクシステム大全」(以下、本書)はそのハードとソフトに特化して発売当時の情報を盛り込んだものです。

(本記事ではソフト名称を一部省略している旨、ご了承のほどを)
ディスクシステムが届けたゲームの夢
本書は「発売中止ゲーム図鑑」シリーズの著者によるファミコンディスクシステム(以下、FDS)に関する一冊です。先に述べたとおり、ファミコンの拡張を目指して開発されたFDS。それは「3倍の容量、(中略)セーブ機能、ゲームデータのみを販売する書き換えサービス」(本書002ページ)を特徴にしていました。
本書ではFDSのハードとソフト、さらに当時の広告や(シリーズならではの)未発売ソフトも網羅したもので、ファミコンROMとはまた違った傾向を持つソフト展開がわかります。レビューも著者独自の視点で書かれ、コラムの中では攻略本に関する記述などもあって当時の理解が深まるでしょう。
先駆的な疑似ネットワーク環境
フロッピーディスクに似たクイックディスクを採用したFDSは、販売店に設置されたディスクライターでゲーム書き換えを行い、新作だけではなくかつてROMで発売されたソフトも遊べる仕様でありました。これはネットが普及するはるか以前に行われた(「TAKERU」と同様の)データ販売といえるでしょう。
さらに、「ゴルフJAPANコース」「中山美穂のトキメキハイスクール」など一部のソフトでは全国的にデータ通信も行われ「パソコン通信の敷居も遥かに高かったアナログ時代に」(本書010ページ)擬似的なネットワーク環境を構築していました。
ライトに遊べる傑作やクソゲーたち
そんなFDSソフトの特徴といえばセーブデータを残せるがゆえのゲームプレイ長期化、すなわちRPGやADVの増加でしょう。初期の作品「ゼルダの伝説」(アクションADV)はもちろん、「メルヘンヴェール」などパソコンRPGの移植も見られます。また、「ふぁみこんむかし話」や「ファミコン探偵倶楽部」シリーズなど任天堂によるオリジナルADVも人気を博しました。
とはいえ、従来のアクションゲームやシューティングゲームも並行して存在しており、特に「悪魔城ドラキュラ」に代表されるコナミは「愛戦士ニコル」「迷宮寺院ダババ」など一捻り効いたゲームを次々に発表、FDSを代表するメーカーの一つでありました。
ROMよりも値段が安くライトに遊べるFDSのゲームには(OVAだった)「機動警察パトレイバー」や「ガルフォース」などキャラゲーの多さも見られます。「SDガンダムワールド」のようにシリーズの先駆けとなる作品もある一方、「仮面ライダーBLACK」のように「この不自由な操作性…ゴルゴムの仕業だ!」(本書147ページ)と言わしめるクソゲーの存在も無視できません。
ドライブのゴムベルトが切れるまで
以前述べた通りディスクを超える大容量ROMとバッテリーバックアップ搭載ソフトの台頭により、FDSは90年代には下火になります。とはいえ書き換えサービスは2003年まで行われ、その命脈は意外にも長く続きました。しかし「唯一の弱点はディスク駆動用ゴムベルト」(本書006ページ)であり、そこまでFDS本体の寿命は長くなかったのです。
先進的な試みも結果的に立ち消えとなったFDS。もしも本書に載っている「ネットワークアダプタ」が軌道に乗っていたらその価値はまた違ったものになっていたかもしれません。ともあれファミコンブームの中、さらなるゲームの進歩に一役買った功績は歴史に残るでしょう。
「ディスクシステム大全」鯨武長之助 著 三才ブックス 2550円(税込)