40年ほど前の子どもには、パソコンが何でもできる夢の機械のように写っていたものです。そう思わせたのはテレビとも違うスマートなハードのデザインにあったのかもしれません。「コンピュータ・ノスタルジア」(以下、本書)はパソコンとして市販された幾多のコンピュータを語る一冊です。

かつてパソコンは、未来が詰め込まれた箱だった
本書はヴィンテージパソコンコレクターである著者たちによる、70年代から80年代にかけて発売されたパソコンの歴史について記述したものです。黎明期のパソコンは基盤のままで発売されたキット形式であり、筐体に収まった形になったのはアップル社のAppleⅡに始まります。
本書ではアップル製品、他社のパソコン、そして日本製パソコンに分けて紹介、黎明期ゆえの各社工夫をこらした姿を堪能できます。ただあくまで著者のセレクトによる魅力あるデザインを基準にしており、歴史的に見て重要ではないハード(むしろそのほうが多い)も見られます。
スゴイんだ、大きいんだ、ぼくらのパソコンなんだ
アメリカを中心に発展したパソコンは基本的に本体・キーボード・ディスプレイのセットで構成され、中にはそれらを一体化したものも存在します。変化が乏しいと思われるそのデザインも各社個性があり「いうなれば誕生のときからレトロ・フューチャーしてしまったようなデザイン」(本書33ページ)も少なからずありました。
当時における最新技術の塊であったパソコンは総じてサイズが大きく、持ち運ぶには不便な代物でありました。しかし中にはポータブルを志向していたものもあり、「まったく小さくはないが、たしかに持ち運び可能ではあった」(同44ページ)それらは実用的とは言い難い設計ではあったものの、デザインだけは洗練されたものだったのです。
マンハッタンシェイプにルーツあり?
共通規格も存在しない時代、各社こぞって独自のパソコンを開発していたのは日本も同じ。シャープを始めNEC、富士通が一時代を築く中、MSXで逆襲を図る以前の他社パソコンの姿が本書で垣間見られます。その中でもやはりデザイン的に優れていたのはX68000をおいて他にないでしょう。
「マンハッタンシェイプ」と名付けられたその筐体は、当時のグッドデザイン賞を授かるほどの独自なものですが、本書では(著者いわく)そのルーツとなるパソコンのデザインに触れ、その共通性に踏み込んでいます。少なくとも当時のアップル社製品のように、デザイン的なこだわりを持って制作されたのは間違いないようです。
人間とコンピュータの関係はどう変わったか
本書には、当時制作されたコンピュータを題材にした映画やアップル社製品のデザインについて、そしてコンピュータと人間の歴史などをコラムで紹介、いかにコンピュータが人間の文化に浸透してきたかが俯瞰できます。そこに流れるのは美談ばかりではなく、人間味あふれる競争の中で形成された物語でした。
インターネットとスマホの普及により、コンピュータと人間の距離は近くなった反面、(性能は低いながら)ヴィンテージパソコンの持つ未来志向は失われたようにも思えます。あえてロマンチックというべきパソコンたちの勇姿を本書で目の当たりにしてはいかがでしょうか。
「コンピュータノスタルジア」長澤均+テクノタク飯塚 著 スタンダーズ株式会社 2860円(税込)