魔王ダンテ ザ・ファースト(Ⅰ・Ⅱ)

 2大傑作「デビルマン」「マジンガーZ」を生み出した漫画家、永井豪。そのオリジンとなる漫画が「魔王ダンテ」であります。「魔王ダンテ ザ・ファースト(Ⅰ・Ⅱ)」(以下、本書)は連載当時の再現に注力した単行本です。


魔王復活から半世紀以上

 本書は1971年に雑誌連載された、永井豪初となる連載ストーリー漫画の単行本です。極力連載当時の再現に努め、巻末には当時の描き下ろしイラストや広告を収録した完全版となります。ギャグ漫画家としてデビューした著者がそこから脱却すべく描かれたのが本作でありました。

 主人公・宇津木涼が見知らぬ声に導かれ到着したのは、かつて神と戦った魔王・ダンテが封印された場所だった。結果的にその封印を解いた涼はダンテの餌食となってしまうが、その意志はダンテの肉体を乗っ取り故郷に戻ろうとする。しかし待ち構えていたのは人間による攻撃だった…というのがあらすじです。

怪獣映画から始まる恐怖の物語

 「巨大なものを描きたい」という著者の思いから生まれた本作。怪獣映画のような始まりからオカルト、SFにまでたどり着くごった煮感は「デビュー作には作家のすべてがある」の言葉通りに、以降の要素を含めた作品になっているのが明確であります。

 ただ、「巨大なもの」を単なる怪獣にせず(タイトルの元ネタは言うまでもなく)ダンテ作「神曲」からの発想で悪魔にしたのは著者ならではの独自性と言えましょう。それゆえ「あの永井豪が恐怖漫画を描いた!」とのイメージチェンジはインパクトがあったようで、本書に収録された予告カットにそれが見られます。

デビルマン+マジンガーZ=魔王ダンテ?

 そんな本作のアニメ化企画から生まれたのが「デビルマン」なのは有名な話ですが、たしかに本書中に見られるダンテの能力を一部開放した姿はデビルマンそのもの。他の悪魔たちも後のデーモン一族を思わせる出で立ちで、かなりの共通点を見いだせます。


 さらに「体長およそ二十メートル」(本書Ⅰ巻273ページ)のダンテは(終盤で明かされるように)機械と生命の融合体であり、封印された施設は未来的な機器に囲まれた場所で、「マジンガーZ」との類似性もうかがえます。

 先にも述べた通り色んな要素が混じり合った本作、それでも迷うことなく読めるのは、主人公のアイデンティティに関する葛藤が作品の中心に据えられているからではないでしょうか。

豪ちゃん大ハッスル!神と悪魔が紡ぐ黙示録

 彼を取り巻く環境は、神の側にしても悪魔の側にしても信用に足らない人物ばかりで、その中で自分は人間なのか、それとも悪魔なのかと懊悩する姿は、「『ハレンチ学園』で世間にメチャクチャ叩かれた」(本書Ⅱ巻349ページ)当時著者が置かれた環境と重なるところがあります。その人間に対する憤りが本書の人類虐殺シーンに現れたのも無理からぬところ。

 連載誌の休刊により、その物語も一応の着地点に到達して終了を迎えたものの、これに傾けられた熱量は以降の作品で花開いたのはいうまでもありません。強大な力を手に入れた人間は神にも悪魔にもなりうる、と「マジンガーZ」で示されたメッセージを原初の荒々しさで描いたのが本書といえるでしょう。(Re)

「魔王ダンテ ザ・ファースト(Ⅰ・Ⅱ)」永井豪 著 小学館 2090円(税込、2冊とも)

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