3か月でマスターする江戸時代

 大河ドラマや時代劇の多くは江戸時代を舞台にしたものです。しかしその実態はどんなものだったのでしょうか。「3か月でマスターする江戸時代」(以下、本書)はそれを解説したテレビ番組の内容をまとめたテキストです。

NHK 3か月でマスターする 江戸時代2025年1月~3月税込1,670(2025/03/31時点)

江戸時代のイメージを改めよう

 本書は2025年1月から3月までNHKで放送された番組のテキストです。近年の研究によって、過去に歴史の授業で習ったものとは随分イメージが変化した江戸時代。本書では専門家による記述によってその実像を探っていきます。

 例えば「現在の教科書には『鎖国』という言葉はあまり用いられなくなりました」(本書45ページ)というように、当時の日本は限定的ながら外国と貿易を行っていたわけで、実態は「鎖国」の意味にそぐわない状況だったようです。

「暴れん坊将軍」ではない、吉宗であった

 時代劇で有名になった人物といえば、八代将軍・徳川吉宗がいますが、もちろん吉宗は御庭番を使って悪人を成敗したりはしていません。本当の吉宗は幕府の財政を立て直す「享保の改革」を行ったことで知られ、またオランダを始めとする外国書物の輸入を奨励し、文化の発展に尽くした功績もあります。

 享保の改革は当時の経済基盤であったコメの増産を実現したものの、それだけでは根本的な解決にはなりませんでした。それを受け継いだ老中・田沼意次は貨幣経済に依拠した政策を推し進めたわけですが、かつては「賄賂政治」のイメージが先行してあまり評価されなかった人物でもあります。

幕末はどうしてこうなった

 それまでの体制が終わったことは知っていても、どういういきさつで進んでいったのがわかりにくいのが幕末。そこには大航海時代から始まる欧米各国による日本への干渉が関わっています。これまでの限定的な貿易の門戸を開かせようとするアメリカやそれを妨げようとするオランダなど、水面下での動きが日本を翻弄した時代ともいえるでしょう。

 薩摩藩と長州藩が幕末に表立ったのも貿易による国力増加によるもので、15代将軍徳川慶喜が国難を収めようとする中、結果的に薩長同盟が幕府と対立する形になったのは、各々に力を貸したフランスとイギリスの対立も一因としてあるわけです。

江戸時代に、ボストンテリアはいないよね?

 ともあれ日本史の中で260年の長きにわたって安定していた時代は、江戸時代の他にはそうありません。もちろん(吉原の例を出すまでもなく)社会的問題はあったとはいえ、太平の世ならではの文化や学問の発展もあり、今に続く社会の基礎を築いた時代には違いないでしょう。

 本書で目立つのは、「犬公方」4代将軍徳川綱吉のイラストに柴犬などに混じってボストンテリアも描かれていたり、大塩平八郎は絵画「民衆を導く自由の女神」のパロディになっていたりして、さりげなく興味を引く作りになっていること。歴史が好きな人もそうでない人も、本書をとっかかりにして歴史の見方を変化させてはいかがでしょうか。

「3か月でマスターする江戸時代」NHK出版 1760円(税込)

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