メカデザイナー・カトキハジメが手掛けたRX-78ガンダムといえば「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」版が有名ですが、それ以前は「ガンダム・センチネル」で描かれたものがいわゆる「カトキ版」でありました。「『極上のガンダム』を作らねば!」(以下、本書)はそのカトキ版ガンダムを作るための一冊です。
「ガンダム」って、本当はこうだったんじゃないか劇場
本書は模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」(以下、MG)の特集記事を単行本化したものです。テーマは「カトキ版ガンダム」(以下、カトキ版)。キット数が少ないカトキ版をいかにオリジナルのイメージに近づけるかを作業工程含め解説したものです。
そもそもカトキ版とは、MGで連載された「ガンダム・センチネル」(以下、「センチネル」)1990年7月号掲載の最終回に登場したもので、「センチネル」の世界観で一年戦争を再現した企画(単行本未収録)の中、立体造形とともに発表されたガンダムのことです。MSV以降、いろいろな解釈で描かれたガンダムの中でもカトキ版は頭一つ抜きんでたもので、長らくモデラーの中ではガンダムの理想像となっていました。
「カトキ版ガンダム」を作るために
安彦良和が描くガンダムをイメージソースとしながらリアリティを盛り込んだカトキ版は、当時発売されたキット(初代)HGガンダムの説明書に同様のイラストが掲載されることで「センチネル」読者以外にも広まり、存在感を増していきます(今にして思えば、キットとかけ離れたものが掲載されていたのは皮肉な事態ではありますが)。
本書ではカトキ版を再現した唯一のキット「MG RX-78 Ver.Ka」をもとに制作された作例と、(MG編集部で無造作に保管されていた)「センチネル」当時の1/72オリジナル立体を掲載、そして新たに作られた作例を、工程含めカトキ版を再現するコツとともに掲載しています。しかしいずれも設定の再現を目指しながら全く同じものにはなっていません。
制作を阻む二次元のウソ
そこには設定に描かれた二次元のウソが関わっています。アニメ設定、特にメカデザインはディテールが重要であり、どう描くかはアニメーターに委ねる比重が大きいのです。カトキ版もその例に漏れず巨大感を出すパースを意識した描き方やあえて正確さを無視した部分もあり、これが「なんだか絵に似ていない」(本書24ページ)立体を生み出す原因とみて間違いありません。
その点、オリジナル1/72の造形には「設定画という縛りに囚われすぎることなく、立体として最も効果的なアプローチ」(同38ページ)が見られ、あくまでも立体的に映える作りを追求した姿勢が多くのガンプラモデラーを魅了したといえます。
「カトキ版」に正解はない
先の理由を踏まえれば、各モデラーが制作したカトキ版が違ってくるのも当然であり、立体的な正解は存在しないと考えるべきでしょう。それゆえ万人に認められる立体は難しく、キットにしろ完成品にしろ未だに商品化されたカトキ版の立体物が少ないのは仕方のない部分があります。
ともあれ肩の分割や関節のディテールなど、カトキ版が以降のガンダム像に多大な影響を与えたのは疑いの余地がありません。設定の登場から30年以上、本書の出版から10年経過する中、もはやその存在は特殊ではないのかもしれませんが、これからも難解かつ魅力的なモチーフとしてカトキ版は作られ続けるのでしょう。(Re)
「『極上のガンダム』を作らねば!」月刊モデルグラフィックス編集部 編 大日本絵画 4180円(税込)