昭和の時代、心霊現象を扱うテレビ特番は夏の風物詩でした。今でこそネット動画にその座を明け渡すものの、幽霊という存在は人間の興味を引くもののようです。「イラストで見るゴーストの世界」(以下、本書)は人間と幽霊の関わりを紐解く一冊です。
イラストで見る ゴーストの歴史税込1,980円(2024/12/01時点)あなたの知らないゴーストの世界
本書は「イラストで見るUFOの歴史」の著者による、幽霊に関する歴史をまとめたものです。おなじみのフラットなイラストと中立的なスタンスで書かれた本書は人間と幽霊の関わりを文化の面から俯瞰し、その奇妙な世界を紐解いていきます。
人間の魂は死を迎えると、こことは別の世界へ行くのではないか、という考えは有史以前から人間の中で生き続けてきました。それは先祖の霊を敬い、迎える風習として文化の中に組み込まれていきます。日本のお盆も欧米のハロウィーンもその意味では同じものであります。
バッチリミナー!降霊術のインチキ
近代になると、南北戦争以後のアメリカを中心に心霊主義(スピリチュアリズム)が生まれ、死者の魂を呼び出す(とされる)降霊術が流行します。フォックス姉妹を祖とする霊媒師のほとんどはインチキではありましたが、「霊媒師の多くは女性で、(中略)社会階層に捕われない生活を楽しんでいた」(本書40ページ)とされ、当時の女性たちにとって(極端に少ない)自活する選択肢の一つだった側面も否めません。
とはいえ「霊媒師たちが(中略)悲しむ遺族から金をだまし取るのを見て呆れていた」(同56ページ)奇術師ハリー・フーディニは、自らのショーなどでそのトリックを暴いていきました。降霊術は暗闇の中で行われるので、単純なトリックを使い客に霊の存在を信じさせることができたのです。
「パックマン」の敵キャラって、ゴーストだったっけ
20世紀になると(幽霊に出くわすとは限らない)ミステリースポットの探索よりも、お化け屋敷や映画の中などエンターテイメントの中で幽霊たちが現れるようになります。本書でも創作物に登場する幽霊を紹介しており、「リング」の貞子から「パックマン」の敵キャラ、「スター・ウォーズ」のオビワン・ケノービまで多岐にわたります。
幽霊がいるなら、それを追いはらう人がいるのも道理。本書では映画「ゴーストバスターズ」に代表される幽霊退治のキャラクターも紹介、「スーパーマリオブラザーズ」の弟・ルイージや「X・FILE」のモルダー&スカリー捜査官など、幽霊相手が本業ではない人もチラホラ見受けられますが…。
あなたたちの魂にやすらぎあれ
信じる信じないは別として、幽霊が恐怖をもたらすものという見方はおおむね世界共通の概念であります。反面、悪霊や怨霊と呼ばれる存在も元は人間である以上、人間の持つ恨みや妬みといった負の感情を体現するものであり、人間心理の写し鏡という側面もあるでしょう。
いずれにせよ幽霊という存在は、人間の精神活動における理性では割り切れない部分の象徴と考えられます。それは「死者に敬意を払い、暗闇に注意するように」(本書114ページ)との、生物として重要な生存本能が具現化したものではないでしょうか。(Re)
「イラストで見るゴーストの歴史」アダム・オールサッチ・ボードマン 著 ナカイサヤカ 訳 マール社 1980円(税込)