ガンダム・センチネル

 アニメ版「機動戦士ガンダムUC」にゼータプラス(以下、Zプラス)が(一瞬でも)登場したのは一つの事件だったかもしれません。「ガンダム・センチネル」(以下、本書もしくは「センチネル」)は、Zプラスなど独自のモビルスーツを登場させた模型雑誌企画の単行本です。


(本記事は初版本を参考にしている旨、ご了承の程を)

アニメじゃない!「ガンダム」の異端児

 本書は模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」(以下、MG)で1987年から90年まで連載された独自企画の単行本です。「機動戦士Zガンダム」「機動戦士ガンダムZZ」(以下、それぞれ「Z」「ZZ」)の世界観のもと、新たに構築されたストーリーと模型で紡がれたもので、アニメと直接の関わりはありません。

 「機動戦士ガンダム」(以下、「ガンダム」)が放送されたあとの80年以降、ガンプラブームによってモビルスーツ(以下、MS)を自分なりの解釈で模型化する傾向はMSVによって加速していました。本書の企画もその流れに沿ったものと思われがちですが、ガンプラを製品化したバンダイ(当時)との共同企画から始まったものなのです。

それはゼータプラスから始まった

 しかし劇場版「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の商品化を優先させたため、一旦企画は凍結されます。登ったはしごを外された形になったMG側は独自に連載をスタート、それを受けてか(Zプラスと主役メカ・Sガンダムのみとはいえ)新規の商品化が実現し、「全てが見切り発進であり」(本書71ページ)ながらも結果的にMSVに準ずるコンテンツになったのです。

 商品化されたZプラスはそもそも「Z」の模型記事別冊で表紙を飾ったもので、その時点では単なる独自解釈のMSでしかなかったものですが、「センチネル」に組み込まれることで全身設定や変形機構も明らかになります。(別冊では頭部の立体しかなかった

MSって、もっとこうするべきなんじゃないの?

 そんなMSたちをデザインしたのは、かときはじめ(現・カトキハジメ)。これまでを踏襲しながら独自のディテールを盛り込んでいわゆる「リアルメカ」の方法論を(大河原邦男とは別に)確立したデザインのMSたちが、「センチネル」の人気を押し上げた一因なのは間違いないでしょう。

 (フルアーマーZZをもとにしたFAZZはともかく)Zガンダムの量産機と設定されたZプラス、ZZガンダムの兄弟機であるSガンダムなど、本書のMSたちはアニメのMSを再解釈したものが多く、「Z」での不人気MS・バーザムさえもガンダムMK-Ⅱの量産機との設定を追加され、新たな姿で立体化されたのです。

 本書には模型雑誌らしく「君にも作れる、完璧版キット改造攻略法」(本書266ページほか)と題し、ZプラスとSガンダムのキットを改造して劇中のイメージに近づける工作の解説ページがあります。当時の最新技術を盛り込んだキットに「じっくり取り組めば、不可能でない手段」(同)でありながらその改造過程は難度の高いものでありました。少なくともガンプラブームでプラモに手を付けた子供にとっては匙を投げるに十分なものだったでしょう。

30年越しの「ガンダム」10年目の問いかけ

 それほどに「センチネル」は80年代当時「ガンダム」を扱った二次創作企画の中では完成度の高いものでありました。それは企画の中心であるあさのまさひこ以下、「キャラクター・モデルなりの、3Dとしての正解を出す」(本書128ページ)コンセプトの下、メカデザイン、カラーコーディネート、SF考証まで徹底的に統一した制作体制で望んだものだったからです。

 それまでのモデラーの個性に委ねた企画とは一線を画し、よく言えば「解像度を上げた」悪く言えば「意識高い系」の作りは熱狂的に受け入れられた一方、拒否反応も起こるのは当然で、それが「センチネル」を孤高のコンテンツにした理由の一つでしょう。

 しかし、それが10年目にしてシェアワールドと化した「ガンダム」を(主にカトキハジメのデザインという意味で)新たな段階に推し進める要因となった、と解釈するのは大仰に過ぎるでしょうか。いずれにしろ、「Z・ZZの設定の枠内で自分達のガンダム体験へのこだわりを消化していこうとした」(同256ページ)本企画は、30年たった今でも「ガンダム」のあり方を問いかけているように思えます。(Re)

「ガンダム・センチネル」モデルグラフィックス 編 大日本絵画 3080円(税込)

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