かつてテレビゲームはドットと呼ばれる点の集まりによって表示されていました。そこにはドットの置き方ひとつで点以上の意味を持たせたグラフィックがテレビ画面上に広がっていたのです。
「ファミコンドット絵の素晴らしき世界」（以下、本書）は、ファミコンゲームの中でもドット絵によるグラフィックに優れたゲームを集めた本であります。
名作には職人技のドット絵を
そもそもファミコンというハードは解像度も低く使える色数も少なく、決してグラフィック的に優秀とはいえません。しかし、そんな制約を物ともせず製作者の職人芸とも言える仕事で、美麗な画面をテレビに展開させたゲームは少なからずあります。
本書で紹介されているゲームにはメジャーな作品も多く紹介されています。「スーパーマリオブラザーズ」はもちろん、「悪魔城ドラキュラ」「星のカービィ」などのゲーム画面をキャラのアップも交えてドット絵の作りがわかりやすいように紙面が構成されています。
ファミコンにおける二大RPG「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」においては歴代作をまとめて紹介、他のハードからの移植作をオリジナルと比較するコーナーもあり、ファミコングラフィックの優秀さを示すような作りになっています。
たとえそれがクソゲーであろうとも
名作と呼ばれるゲームにはグラフィックの美しさが欠かせないようですが、逆も真とは限らないのがファミコンゲームの面白いところ。本書はグラフィックが良ければゲームの内容はおかまいなしという潔いコンセプトで、いわゆるクソゲーと呼ばれるものも「迷作ファイル」として紹介しています。
「いっき」「スペランカー」「暴れん坊天狗」など、クソゲーとしてメジャーなタイトルが紹介されており、クソゲーとしての評価よりグラフィックの出来という観点からみると、なかなか味のあるドット絵に気付かされます。
そして「バンゲリングベイ」に関しては「独特の操作性とシステムで正当に評価されなかった悲運の名作」（本書66ページ）と、クソゲーと言われがちの本作を擁護するコメントがされています。これに限らず本書は著者の実感がこもっているコメントが多いように思えます。
美少女は美麗グラフィックのバロメーター
さて、本書は「美少女ファイル」と題していわゆるギャルゲーも別枠で紹介しています。ギャルゲーといっても当時は「美少女が主人公のゲーム」という程度のものではありましたが、本書で紹介されている「マドゥーラの翼」「アテナ」など初期のファミコンゲームでは小さいサイズのドット絵でプレイヤーキャラが描かれているだけで、本来の姿を知るためにはパッケージや説明書のイラストを見るしかない状況でした。
ところが1990年付近のファミコン末期になってから、美少女キャラのグラフィックを画面上に表示するゲームが増えてきました。これは当時グラフィックに優れたゲームハード、PCエンジンが積極的にギャルゲーを出していたことも関係していたのかもしれません。
その代表と言えるのが4年もの歳月をかけ、拡張チップを搭載したが故に生産数が少なく、幻の名作と称される「メタルスレイダーグローリー」。本作のプロデューサーで漫画家でもある☆よしみるの絵柄を見事に再現し、「女の子のグラフィックがとにかく美しい」（本書93ページ）アドベンチャーゲームです。
これに限らずプログラムやドット絵の技術が向上した末期のファミコンソフトは、ゲーム内容はもちろんグラフィックも円熟の域に達していました。ただ、市場が先に挙げたPCエンジンやメガドライブなどの次世代機に移行していたこともあって、あまり注目されることもなく歴史に埋もれてしまいました。
あの時あのゲームを手に入れていれば…
そんなこともあって、本書はファミコン末期のゲームが多めです。前述したようにグラフィックが向上していた時期のものなので当然とは言えますが、それだけマイナーなゲームが多いというわけで、奇しくも隠れた傑作を紹介する内容にもなっています。
かつて横目で見ただけのファミコンゲームが本書のおかげで気になる内容だったことに気づくと、手に入れられなかったことを後悔してしまいます。そういう意味では罪な本かもしれません。
ただ、本書のサイズがA5版で、グラフィックを見せるためにはサイズが小さいことが少し気になります。せめてB5版ぐらいだったらよかったのですが。
「ファミコンドット絵の素晴らしき世界」レトロゲーム愛好会 編 主婦の友社（発売）主婦の友社インフォス（発行） 1800円＋税
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