ポーズの美術解剖学

 人体を描くときにポーズを検討するのは意外に骨が折れるもので、それはプロの芸術家でも同じこと。「ポーズの美術解剖学」(以下、本書)は数多くの美術作品からポーズを抽出し、わかりやすくシンプルな図で表現した一冊です。

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SNSから生まれたポーズ集

 本書はSNS上で「伊豆の美術解剖学者」として知られる著者が、投稿を続けたポーズ画を集めたものです。そこで使われた人体図は著者の試行錯誤を重ねて描かれた、シンプルかつ人体構造がわかりやすいようにラインが引かれたもので、これによりポーズの構成が理解しやすくなります。

 本書冒頭にはこの人体図を用いて、基本構造、関節の可動範囲、体型の男女差、重心とバランスなど人体を描くときに必要となる知識を解説しています。これだけでも役に立つ内容ですが、以降は本書のメインである美術作品のポーズを抽出したページが続きます。

どの作品のポーズか、わかるかな?

 さて、本書のポーズ集は絵画、彫刻、デッサンなど西洋美術の人物像を人体像で表し、モノクロと着彩されたものを併記しています。モノクロは陰影を、着彩は体幹、腕部、脚部で色分けて強調し、腕部は肩甲骨まで、脚部は臀部含む腰周りまで塗り分けており、人体の動きがそこまで及ぶのがわかるでしょう。

 描かれたポーズは古代ギリシャ彫刻、ミケランジェロやロダンなどの有名な作品から美術解剖学用に作られた人体模型(エコルシェ)のものまで様々です。下にその作品名が記述されていますが、原題表記なので日本語訳が欲しかったところ

少年ダビデと仲間たち

 キューピッドや聖母子像における幼少期のキリストなど、子どもが美術作品に登場するのは珍しくありません。本書でも一章を設けて子どものポーズを集めており、その中でも(ミケランジェロ作で有名な)ダビデ像が複数掲載されているのは日本人から見ると意外であります。それは、ダビデが巨人ゴリアテと戦ったのが少年期だったという伝承が影響しているのでしょう。

 そして、その後に続くのは複数人のポーズ。先の母子像から格闘、愛情あるふれあいまで様々なシチュエーションで構成されたポーズは、群像や空中を舞うようなものなどモデルを使って行うと難しいものが多く、本書の重要性がうかがえる部分であります。

ポーズ集までの長い道のり

 このように、美術作品のポーズは作品の効果を高めるためにデフォルメされたものが多く、実際にポーズを取ってみると意外に苦しい「考える人」などはその証左でありましょう。本書が実際の作画に役立つと評価されるのは、過去の芸術家が切り開いたポージングの集大成という側面だと思われます。

 しかし本書が生まれるまでには苦労があったようで、本来「彫刻の古写真をまとめた本」(本書431ページ)の企画が頓挫した苦肉の策から始まり、SNSでは「センシティブな画像」(同)と判断されたりしながらも、「最終的に描いた枚数は、1,000枚を大幅に超えて」(同432ページ)結実した本書。これはその苦労に見合ったものとなったのではないでしょうか。(Re)

「ポーズの美術解剖学」加藤公太 著 SBクリエイティブ 6050円(税込)

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